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その落ち着いた中性的な声に、グレイスはびくりとした。
碧い目で声の主を探す。
……居た。
酒場の隅っこ。
丸いテーブル。
椅子が二脚。
まるでそこだけ酒場から隔離されているように静かで、グレイスはぞっとした。
そして、そのグレイスの様子を見て、テーブルにティーカップを置いて優雅に紅茶を飲んでいた砂色のフードを深く被った男が、小さく笑った。
「そんなに驚かなくても。まぁ座りなよ」
フードから覗く紅い唇が笑う。
不気味だ。
不気味だが、グレイスは臆する心を隠して明るい声で言った。
「やぁサファイア。久し振りだな」
真向かいに座ると、フードの男は懐からティーカップを出してグレイスの手前に置いた。
フードと同じ色のローブから覗く白い手には幾つもの指輪。
見え隠れする少し長い黒髪。
「どうせ、君は職務中に酒は飲まないとか言うんだろ? 僕が淹れた紅茶で良ければ飲みなよ」
フードの男――サファイア・P・スィアーノはそう言って、これまた豪奢な銀の水筒を懐から取り出して、グレイスの前のカップに紅茶を注いだ。
しかし、次から次へと色々出てくるなあの懐。
一体ローブの中はどうなっているのだろう。
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