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ふぅん、と、サファイアは紅茶のお代わりを注ぎ入れながら興味無さげに相槌を打った。
グレイスも乾いた舌を冷めてしまった紅茶で潤してから、話を続けた。
「軍内部でも評判になった。小隊とはいえ、鎮めたのは二十歳にも満たない子供。稽古をつけてやろうと言う者が何人もいた。俺は実力派で名高い剣士との手合を見た。相変わらずぼけっと突っ立っててロクに動きやしない。だから剣士の方が焦れて斬りかかった。……一瞬で終わったよ」
上段の構えで大剣を振り降ろす。見物していた誰もが、アレは脳天叩き割るぞ、洒落にならないぞと言っていた。グレイスもそう思った。
だが。
目にも見えぬ速さとは“ああいう事”を言うのだろう。
一瞬だった。
だから結果しか解らなかった。
大剣は宙を舞って地面に突き刺さり、剣士の喉元にはストラ伍長の薙刀の刄。
僅か数秒の出来事だった。
伍長は薙刀を藍色の布に納めて、ありがとう御座居ましたぁと間延びした独特の口調で礼を言い、その場をのんびり歩き去った。
呆然としている剣士と見物人達を残して。
「まぁ、それが名を広めた訳だ。我がローグランド軍一の実力派で唯一の薙刀使いギル・ストラ。またの名を鬼神――、とな」
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