最終章・その命の真実

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「………ジェレミィ、だったのか………」 無理矢理動揺を抑え付けると、クレスはジェレミィの手を引き起こした。 「パパどうしたの、今のパパヘンだよ!」 開口一番にそう叫んだジェレミィ。 クレスはどうしたらいいのか解らなくなった。 「………単なる発作だ、夜風に当たっていれば治まる………」 「おかしいよ、何であそこに立ってたの!?」 手摺りを指差すジェレミィに、クレスはどう表現すれば良いのか解らない。 他人には知り様もない、この薄気味悪い感覚。 「顔も真っ青だし、俺、よく解んないけど、絶対おかしいって!」 「…………暫く寝てないからな」 「だったら寝よ、夜更かしするのは良くないよ!」 「……眠くない」 「お布団入れば眠くなるよ、羊数えれば眠くなるよ!」 本当は眠い。 ただ頭が恐怖で眠る事を拒否しているだけだ。 眠ってしまったら、二度と目覚める事が出来なくなってしまう様な。 自分が自分でなくなってしまいそうな。 永い刻をかけて、漸く確立した自己が消えてしまいそうな。 ―――また、自分は"龍"と化して、ゼフィや子供達を殺そうとするのではないか 時々夢に見る、光景。 再び"龍"と化した自分が、今度は立ち直れぬ程絶望しきった自分が、全てを殺して殺して殺し尽くし、全てを壊し尽くす夢。 夢を見る事を拒絶した頭が、耐え切れない眠気から幻覚を引き起こしてクレスを幻へと誘う。 手摺りになんか立っていたのは、手招きされていたから。 優しく微笑む母が、手招きしながらクレスを見ていた。 ジェレミィが来なければ、クレスは間違いなくテラスから海に落ちていた。 「………ジェレミィ、十年以上前の事件は知っているか?」 「ママが言ってた。おっきな怪物が、沢山物を壊したりしたんだよね」 「……あれは―――俺がやったんだ」 ジェレミィは最初意味が分からなかった。 クレスは止める術を知らぬとばかりに続ける。 「俺は時々自分が解らなくなる。"俺"が"クラウ"なのか、"クラウ"が"俺"なのか。お前やシャールよりもっと小さい頃から言われていた、"化物"と。何故そう呼ばれるのか、俺には解らなかった」
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