第2章  栞(しおり)の場合

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その2 それから。 何回目かの電話で、やっとお兄ちゃんが出てくれたんです。 「あっ、お兄ちゃん!栞です。やっとつながった!」 「あぁ。ごめんね。どうした?」って、お兄ちゃんは言った。 「どうした、って。また逢ってくれるって言ったじゃん」 あたし、お兄ちゃんの声が聞けて、とてもうれしかったんです。 「まぁ、栞は妹みたいなもんだしな。じゃあ、いつ逢おうか?」って、お兄ちゃんは言った。 「じゃあ、今度の水曜日は?夜の8時にどこかで」って、あたしは答えた。 あたしとお兄ちゃんは、次の水曜日に新宿で逢うことを約束したんです。 やったーっ! あたしは、とっても嬉しかったんです。 またお兄ちゃんと、お話できる! 水曜日が来るのが、とても待ち遠しかった。 その日。 夜8時に、マイシティー前のステージのところで、お兄ちゃんと待ち合わせしたんです。 8時10分、か。 お兄ちゃん、遅いな……。 「ごめんごめん!少し遅れちゃったね」と言いながら、お兄ちゃんはあたしのそばに走ってきたんです。 あたし、自然と笑顔になった。 「ううん。お仕事お疲れさまでした!」 お兄ちゃんの笑顔を見たら、あたしはまた楽しくなった。 お兄ちゃんとあたしは、新宿三丁目に向かって歩いたんです。 えいっ! あたしは、お兄ちゃんのひじに手を絡ませた。 「おいおい!妹はそんなことしちゃダメなんじゃないの?」って、お兄ちゃんは言った。 あたし、勇気を出してこう言ったんです。 「妹だからいいんだも~ん」って。 それからお兄ちゃんとあたしは、チーズフォンデュを食べたんです。 写真の話や、最近起こった面白かったこと。 あたしは、またお兄ちゃんにいろいろな話をした。 お兄ちゃんは、ニコニコして話を聞いてくれたんです。 あたし、きっとそのときお兄ちゃんのことが好きになりかかっていた。 でも。 まだ、自分の気持ちが整理できていなかったんです。 だから……。 「そうそう!最近ね、友達の間で流行ってることがあるの。プロジェクトCっていうんだけど」と、あたしは言った。 勇気を出して、言った。 「へっ? なんだよそれって?」 お兄ちゃんは、不思議そうな顔をしてあたしの顔を見てる。 あたしは、平気な顔をしようとしたんです。 ニコニコ笑うように心がけて。
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