第2章  栞(しおり)の場合

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その3 お兄ちゃんとあたしは、公園をゆっくりと歩いた。 できることならば。 いつまでも、このつないだ手を離したくない。 でも。 いつの間にか、もうかなり遅い時間になっていたんです。 あたし、帰らなきゃ。 だけど。 本当は、お兄ちゃんともう少し一緒にいたかった。 駅に向かう途中で、あたしお兄ちゃんに言ったんです。 「あのね、あたし先輩のことは、もうあきらめようと思うの」って。 「そっか……」って、お兄ちゃんはうなずいた。 「うん。失恋から立ち直るには、新しい恋をするのが一番だと思うし、好きなひともできたし……」 あたし、そう言いながら、お兄ちゃんの顔をじっと見た。 そのとき。 お兄ちゃんの顔が、少し曇った。 あたし、そのことがすごくうれしかったんです。 新宿駅西口に着いた。 そして。 小田急線の改札に来たとき。 あたし、思いっきりの勇気を出したんです。 「お兄ちゃん、またすぐに逢ってよね。約束だよ。バイバイ!」 そう言ってあたしは、お兄ちゃんの首筋に優しくキスをした。 あたし、自分でも顔が赤くなるのが分かった。 顔が、とっても熱い。 首筋に手を当てて、呆然としているお兄ちゃんに手を振りながら、あたしは小田急線の改札に急いで入った。 電車の中で、あたしまだドキドキしてたんです。 やっちゃった! でも。 あたし、お兄ちゃんに分かって欲しかったんです。 あたしが、お兄ちゃんのことを大好きだってことを。
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