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あたしは、お兄ちゃんに見て欲しかったんです。
あたし自身を。
妹として、なんかじゃなく。
「ごめん、栞……」
お兄ちゃんは、そう言いながらあたしを抱きしめてくれたんです。
「栞ね、お兄ちゃんのことが本当に好きだったの……。いつも優しくて、何でも楽しそうに話を聞いてくれて……」
でも。
お兄ちゃんは、何も言ってくれなかったんです。
やっぱり、そうなんだよね。
お兄ちゃん、良く分かったよ……。
お兄ちゃんとあたしは、ベッドに並んで寝転びながら、長い時間話をした。
そして。
いつの間にか、始発電車が動く時間になっていたんです。
ホテルを出たあと、あたしはもうお兄ちゃんと手をつなぐのをやめたんです。
もう、終わりなんだから。
もう、甘えちゃダメなんだから……。
そう自分に言い聞かせながら。
新宿駅に着いた。
マイシティの階段で、あたしは立ち止まる。
そして、こう言ったんです。
「さようなら、お兄ちゃん……」って。
お兄ちゃんが、あたしを抱きしめた。
あたしは、ゆっくりと顔を上げてお兄ちゃんの目をじっと見つめた。
あたしは、ゆっくりと目を閉じた……。
そして。
お兄ちゃんとあたしは、最初で最後のキスを交わしたんです。
ありがとう、お兄ちゃん……。
あたしは……。
お兄ちゃんの、目が好き。
くっきり二重に、フサフサまつげ。
あたしなんかより、全然長い。
まばたきすると、バサバサと音がしそうなくらい。
きっと、マッチ棒だって簡単に乗りそう。
そんな目で、見つめられたとき。
あたしの胸は、キュンってして、熱くなったんです。
あたしは……。
お兄ちゃんの、そんな目で。
あたしだけを、ずっと見つめていて欲しかった。
『恋愛小節1990~Girl's Side』
第2章 栞の場合
了
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