第3章 陽子の場合

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あなたは、アイツに良く似ていた。 でも、やはりアイツとは違う。 あたりまえだけど、違う。 あたしはまだ、アイツのことを忘れられないでいた。 でも……。 あたしは、そんな気持ちを振り払うように、フロアに出た。 あなたは、背の高い椅子に座って、あたしを見ていた。 見られるのは、キライじゃない。 でも今は、なぜかドキドキしていた。 あなたのことが、とても気になる。 あたしは、踊りながら、あなたのことをチラチラ見ていた。 そのとき。 あなたは、右手の中指と人差し指を、小さく左右に振った。 あたしも、同じように指を振った。 なんだか、楽しい。 そして。 あなたがフロアに出て、私のそばまで歩いてきた。 そしてあなたは、あたしにこう聞いたの。 「名前教えてくれるかな?」って。 あたしは、そんなに軽い子じゃない。 でも。 アイツに似てるあなたは、特別だと思った。 「よ・う・こ!太陽の陽に子供の子!」 あたしは、あなたに抱きつきながらそう言った。 フロアには、ロマンチックなレゲエが流れていた。 あたしは、あなたと一緒に踊った。 一緒に踊って、あたしは、すぐに気づいた。 あなたとなら、大丈夫かもしれない。 アイツに似ている、あなたとなら……。 あなたとあたしは、フロアを後にして、ボックス席で一緒に過ごした。 「ねぇ、お腹空かない?」と、あたしはあなたに言った。 あなたは、あたしの手を取ってフロアを抜け出した。 「何食いたいの?」と、あなたは聞いた。 「うーん……。ファミレス行きたい!ロイホでオニグラ!」 あたしは、そうあなたに言った。 そのとき。 自然に笑っている、自分に気づいたの。 こんなこと、久しぶりだな……。 あなたは、あたしの腰に優しく手を回して、店から連れ出してくれた。
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