第1章 沙樹子の場合

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あなたは、あたしをギュっと抱きしめながら踊ってくれた。 胸が、ドキドキする。 あたしは、あなたの目をじっと見つめていた。 「この曲知ってる?」と、あなたがあたしの耳元でささやく。 あたしは、首を左右に振る。 そしてあなたは、あたしの目をしっかりと見つめて、こう言った。 「Lovin'You」 そしてあたしたちは、初めてのキスを交わした。 もう電車がない時間なのは、分かってた。 でも、そのことには気づかない振りをしていた。 「サッコさぁ、もう帰れないんじゃないの? 大丈夫?」 あなたは、ホントに焦ったように、そう言った。 「帰れないよ、もう…」 あたしは、ちょっと困ったような顔をして、あなたを少し心配させてみた。 「あした、朝7時から仕事なの」と、あたしはあなたに言った。 あなたは、少し考えているようだった。 そして、あたしをもう一度ギュって抱きしめながら、こう言った。 「朝までふたりっきりで一緒にいたい。悪いことはしないから…」って。 その言葉にあたしの胸は、すごく熱くなった。 でも、平気な顔をしよう、しようって思ってた。 だって。 すごく恥ずかしかったから……。 お店を出たあたしたちは、池袋の街を歩いた。 あたし、少し酔ってるみたい。 さっき飲んだ、ワインクーラーが効いたのかな? だから。 あなたに自然と寄り添うように歩いたの。 そのホテルは、普通のビジネスホテルみたいに見えた。 そして。 あたしたちは、そのホテルの部屋に入る。 でも……。 その部屋には、大きなベッドが、ひとつしかなかった。 あたしは、ベッドに腰掛けた。 そして。 あなたが、あたしの隣に、ゆっくりと座った。 そして少し時間を置いて、こう言ったの。 「シャワー…浴びてくれば?」って。 「えっ…。あたしそんなつもりじゃ……」 あたし、ドキドキしてる……。 「分かってるよ。だって汗かいたでしょ?」 「そうだけど……」 あなたの真剣な顔を見たとき、あたしは覚悟を決めたの。 今度こそ、勇気を出そう、って。
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