第1章 沙樹子の場合

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その4 シャワーを浴びたあたしは、ベッドに横になった。 ゆっくりと目を閉じる。 あなたはシャワールームを出て、あたしのそばにゆっくりと腰を下ろした。 しばらくすると、あなたが急に立ち上がった。 えっ? どこに行くの? あたしは、思わずあなたの手首をつかんでいた。 「……そばにいて欲しいよ……」 あたしは、ついそう口にしていた。 あなたは、あたしにゆっくりとキスをした。 あたしは、ゆっくりと目を開けて、ひとつ大きく息をついた。 そして、あなたの目を見ながら、勇気を出してこう言ったの。 「あたし、初めてだよ…」 あなたは、優しくあたしを見つめていた。 そして、こう言ったの。 「…そんな気がしてたよ」って。 あたしは、とても幸せだった。 でも。 あたしは、不安だった。 あなたも、そうなの? あたしを、抱きたいだけなの? そんな不安を、あたしは感じていた。 それでも。 あなたに逢えない夜は、あなたのことを考えて過ごした。 逢えない時間が長くなっても、あたしは平気だった。 だって、そのとき。 あたしは、あなたのことを信じようって思うことができたから……。 あの夜。 あたしは、あなたに逢いたくて、あなたの部屋に行った。 あなたは、あたしに言ってくれたよね。 「俺は、サッコのことが本当に大切なんだ。いつも考えてるんだよ。サッコがいま何してるんだろうって」 あたしは、その言葉を聞いたとき、涙が出た。 そして。 「俺のことをどう思ってるんだろう、とか、情けないけどいつも不安なんだ」って。 あぁ、そうなんだ。 あなたも、あたしと同じだったんだ。 「あたしもそうだよ。いつも不安だよ。ひろが何考えてるのか、全然分からないし……」 あたしは、あなたの目をじっと見つめた。 そして、思ったの。 お互いをちゃんと理解して、ちゃんと信じることが、きっと大切なことなんだ、って。 あたしは、あなたを信じたい。 そのとき、やっと本当にそう思うことができたの。
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