第3章 陽子の場合

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第3章 陽子の場合

その1 あたしは……。 あなたの、指が好き。 女の子みたいに柔らかで、細い。 器用に動く指先の動きを見ているだけで、あたしはうれしくなる。 だから。 あたしは、いつもあなたの指先を見ていた。 そんな指で、やさしく触れられたとき。 あなたは知ってたかな? あたしの胸が、いつもドキドキしていたのを……。 そしてあたしは、あなたの指をずーっと見ていたいって思った。 いつまでも、ずっと。 あなたと初めて出逢ったのは、池袋のクラブでだった。 レゲエがかかるその店に、その夜あたしは、ひとりで行ってみた。 フロアで踊るあたしを、まわりの男たちが見ていた。 でも。 別にいま、あたしは男が欲しいわけじゃない。 ただ。 あたしは、ただ踊りたかった。 だから。 声を掛けてくる男たちを、無視し続けた。 踊りつかれたあたしは、フロアにいる男たちをボーっと見ていた。 あたし、どうしたいんだろう……。 こんな毎日を、ずっとこれからも続けていくのかな……? そんなことを考えていたとき。 あたしは、あなたの姿を見つけた。 えっ? アイツ? あたし、胸がドキッとした。 ううん。 そんなはずない……。 だって、アイツは、もういないんだから……。 でも。 いつの間にか。 あたしは、あなたのそばに立っていた。 そして、アイツに言っていたのと同じように、あなたにこう言った。 「久しぶり!元気だった?」 あたしは、あなたに抱きつきながら、目を閉じた。 フロアには、ベースの効いたレゲエが鳴り響いていた。 あなたは、あたしを引き寄せ耳元でこう言った。 「あぁ、まあね。君はどう?」
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