11人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、桜田友里子、三十四歳
一週間前までは、幸せ一杯の結婚生活を送っていた
そう、一週間前までは・・・
「友里子、いってくる」
と勇次は靴を履き、玄関の扉を開けた
「あなたっ、あなたっ‼
忘れ物っ‼」
と言いながら、私は足早に玄関に向かった
「忘れ物って?
なんだよっ?」
と勇次は私に言うと、私は目を閉じて、勇次の顔に唇を近付けた
「時間が無いんだから」
と勇次は拗ねたように言いながらも、照れ臭そうに私の唇に自分の唇を近付け、重ねた
「じゃ、いってくる」
と勇次は言うと、照れ臭そうに頭を掻きながら、玄関の扉を閉めた
「いってらっしゃい」
と私は勇次に言い、勇次の姿が扉に隠れるまで、手を振りながら、見送っていた
その男の名は
「立川 勇次」
私の最愛の夫だった人で、今は・・・
憎んでも、憎みきれない男
そう、今でも目蓋を閉じれば、あの頃
幸せ一杯だった頃の場面が、鮮やかに思い浮べてしまう
私と勇次との出会いは、お互いの友達の結婚式の二次会だった
私は新郎の友達・・・
と言うより、同僚と言った仲だった
ただ、新郎と同じ部署だったので、社交辞令的に、結婚式に参加したのだ
「早く、終わらないかなぁ
他人の幸せなんて、つまらない
新婦の方はと・・・
結構、盛り上がっているのね
あれは、同僚と言うより、同級生かしら
いいわね
こっちとは、えらい違いね」
と私は新婦の関係者が座っている席を、周りの人間に気付かないように、眺めていた
そして、結婚式は新郎新婦のスライドショーが始り、始まると、辺りが薄暗くなった
すると、私の頭の中に睡魔が入り込んで来た
私は何度も、首を振り、睡魔を振り払いながら、スライドショーを見ていたが・・・
私の前に座っていた、四十半ばの上司は、睡魔に負けたのだろう
頭を何度も上下させていた
そして、新婦の大学時代のスライドが映し出されると、私の睡魔が何処かに吹き飛んでいた
そのスライドに、何人か?
私、好みの男が映っていたのだ
私は思わず、新婦の関係者の座っている席を、眺めていた
「友里子、友里子っ‼
どうしたの?
知ってる人がいたの?」
と隣に座っている、文子が私の耳元で、そう、囁いた
私は、我に返ると
「見間違いだった」
と私は文子の耳元で、そう、囁くと、再び、スライドショーを観賞していた
最初のコメントを投稿しよう!