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渡世人の笠が傾いているのも直すのが面倒だから。
振り分け荷物を引きずるのも担ぐのが面倒だから。
人を斬った後長脇差の刃を丹念に拭うのも、拭うのを怠り錆びるより面倒がないから。
ためらわず、表情を変えず人を斬る渡世人に今更ながら茂作は恐怖を感じた。
その表情に気付いた渡世人が声をかける。
「安心しねえな。堅気は斬らねえ。
……斬ると後が面倒だからな…………」
そう言ってニヤリと笑った。
「ま、まあ親分さんに助けてもらって本当にありがてえと思っているだよ。
ご恩返しに今夜くれえはおらの家に泊まってほしいだが……赤目の岩鉄の子分の目につくとまた揉め事がおこるかもしれねえ。……そうだ村の外れに使われてねえ水車小屋がある。
あそこで一晩過ごしたらどうだんべえ、飯は後で届けるで」
渡世人は今から野宿する場所を捜すのは面倒と思ったのだろう、茂作に向かい頷いた。
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