娘と水車小屋

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茂作に案内され村外れの水車小屋についた頃には太陽が西の山に沈みかけていた。 秋の夕暮れ、ましてやここは木曽路である。風が身に染みて、いくら旅慣れた渡世人でも強い寒さを感じていた。 渡世人を案内すると茂作は晩飯を取ってくると言い残し、家へと戻っていった。 水車小屋の中はあまり荒れておらず四方の壁も残っている。村人に見つかる怖れがあるので火はおこせないが、風を防げるだけでも随分と助かる。 板壁に、落ちていた分厚い板を立て掛け渡世人は 座った。板を背中に挟むのは壁越しにいきなり刺されないためだ。渡世人の習慣といえた。 笠を取り、長脇差を腰から鞘ごと抜き取りそれを抱く。残されていた半分腐りかけた筵(むしろ)を合羽の上からかぶり目をつぶった。
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