娘と水車小屋

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眠ってはいない。しばらくたった時、入口に人の気配がした。今夜は月が出ている。月光に照らされ女の顔が見えた。 女が声をかけてきた 「あの、親分さんですか。おじいちゃん、あ、茂作の孫の、咲、といいます。おじいちゃんは昼間岩鉄の子分に殴られた傷が痛み歩けないので、私がかわりに晩御飯をもって来ました」 渡世人は咲の顔を見た。月明かりに照らされた顔はごく普通の娘だ。とりたてて美人ではない。歳は十六、七くらいか、農村に似合わぬ色の白さだけが目を引いた。 咲は持っていたどんぶりと箸を渡世人に差し出す。中身はなっ葉や雑穀の入った雑炊だ。渡世人は無言で食べ始めた。 咲は少し離れた所に座り聞いてきた。 「あの、親分さんはずっと旅をされてるんでしょう。私、一度もこの村をでたことが無いんです。だから他国の話が聞きたくて。珍しい物を見たり聞いたりしてるのでしょうね」 旅人が珍しいのだろう。咲は臆せず渡世人に話かけてくる。
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