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「いや、おらの命が助かったのは親分さんのおかげだ。おら茂作ともうしますだ。……親分さんに、ちょっくら聞きてえ事があるだ」
茂作は何故、斬る前に相手と話をしなかったのか、兄貴分の小五郎の他に残り二人も斬ったのか。そして死体を崖下に捨てたのかを尋ねた。
「……ふぅ」
渡世人はため息をつくと億劫そうに話しはじめた。
「話しあうのが面倒だからだ。相手が長脇差の柄に手を掛けたら話しあうより斬る方が面倒じゃないからな。
残り二人を斬ったのは生かしておくと赤目の岩鉄とかいう奴に報せに行くだろう。
そうなると面倒だ。死体を捨てたのはこれも見つかると面倒だからだ」
茂作は、なんとなくこの渡世人の性格が理解できてきた。とにかく物事を
「面倒か」
「面倒じゃないか」
にわけるのだ。
話しあうより斬る方が、一人斬るより三人斬る方が後が面倒でないと思ったら殺人もいとわないのだ。
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