32人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は無我夢中で瓦礫をどけていった。
積み上げられた瓦礫がなくなっていくにつれ、僕の中で期待が大きくなった。
でも、それと同じように不安も大きくなった。
『もう何も失いたくない。』
僕は必死になって作業を進めた。
暫くすると、微かな明かりの中に、小さく幼い手を見付けた。
それは、間違いなく血が通っているであろう、初めての手だった。
「がんばるんだぞ!もうちょっとだからな!」
自分の性格なんて忘れてしまっていた。
自分がどのような人間だった、なんてまったく記憶にはなかった。
でも、少し違和感を覚えた。
きっとこれが本当の僕で、忘れた僕はオブラートに包まれた僕、あるいはコーティングされた僕だったのだろう。
見え始めた確かな希望に、僕はそれ以外の思考を奪われていた。
僕にはもう体力など残っていなかった。
それでも必死になった。
『助けたい。』
『もう独りは嫌だ。』
複雑、しかしながら純粋でゆるぎない思いだけが僕を動かしていた。
ひたすらに作業を進める内に、時間は過ぎて、周囲は真っ暗になり、いや、もううっすらと明るくなっていた。
やがて、薄明かりに少女の身体が姿を現した。
「よくがんばったな。」
意識が朦朧とした中、僕は少女の小さな体を抱き上げ、ぎゅっと抱き締めた。
「ん…ちょっと…疲れた…。」
真夏の日差しが照りつける中アイスクリームが溶けるように、僕の全身の力が抜けていった。
僕はそのまま後ろに倒れ込んだ。
瞼が重力に負けそうになる中、僕はその時少女の顔を初めてみた。
一瞬だった。
少女は両眼から何かの液体を流していた。
少女はそっと微笑むと僕の意識は遥か彼方へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!