十話 天の邪鬼

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 部屋の外にいた父と母は、すぐに部屋へ駆け付ける。 「耕太!」 「・・・寝言みたいだな」 両親は一息ついた。 息子の本心を聞いても、何もしてやれない自分達が、歯痒く感じた。  二人はまた病室の外へ出た。 そこへ医師がやってきた。 「どうですか? 耕太くんの様子は」 「今、寝言を言ってましたけど、また落ち着いて眠ってます」 母が答える。 「ご両親も、少し休まれてはどうでしょう?」 僕に何かあった時の為、両親は呼び出されてから、ずっと部屋の前で待機していた。  「いえ、大丈夫です」 「俺がここにいるから、少し休んでこいよ」 父も、母に休むよう促す。 「そんな事より、耕太を治して下さい!」 母はそんな事に耳を貸さない。  「そう言われましても・・・。 第一、息子さんが死にたいと思われてるのでは・・・」 「耕太は・・・」 母が言うより早く、父は医師につかみ掛かった。 「おぃ! 今なんて言った?」 「あっ、いや・・・」 「それでも、耕太を見てきた医者か? お前は、耕太の事を全然分かってねぇ!」 冷静でいたはずの父。 その取り乱した姿を見て、母があっけに取られる。  「落ち着いて下さい」 医師は、なだめようとしたが、父の感情は収まらない。 「耕太は心から生きたいと思ってんだよ! なのに、俺達には・・何にもしてやれねぇ。 頼む事しか・・・。 何とかしてくれよ」 医師への怒り。 そして、怒りの感情から自分の無力さに変わり、父は泣き崩れた。 「こちらでも、最善の手を尽くしますので」 父と母は、医師に深々と頭を下げた。
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