パターン1

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 「絶対だいじょぶだから! だって、あたしが治るって信じてるから」 彼女が僕の手を強く握りしめる。  「これだけは・・言っておきたかったんだ」 「何?」 「今なら・・夢を叶えられる。 ・・僕は・・香菜恵さんの事が好きです」 彼女の潤んでた瞳から涙が溢れだす。 「・・やだよ! ・・こんなの・全然嬉しく・ないよ。 嫌いって・言ってよ」 彼女の声は涙で詰まる。  「香菜恵さんの・・夢も・・叶えて・あげられた」 「あたしが、昨日あんな事言ったから・・」 「それは・・違いますよ。 僕が・言いたかった・・だけですよ。 好きな人に・・「好き」って言いたいと思うのは・自然な事でしょ? でも・・もっと一緒に・・・」 言い掛けた僕の口を彼女の唇が塞いだ。 「手術が・・、上手くいくおまじない」 「ありが・と。 でも・、キスは・・甘い味・・だと思ってたけど」 「もぅ」 彼女は僕の胸に顔をうずめた。  「私も耕太さんの事大好き・・・」 もう、声も聞こえないや。 耳元で、なんて言ったのかな。 「耕太さん?」 彼女が顔を上げた時には、もう僕の意識はなかった。 「起きてよ。 ねぇ・・・。 耕太さん!!」 僕の体はもう、揺すられても反応しない。  大きな声を聞いて、部屋の外にいた両親たちが駆け付ける。 「耕太! しっかりしろ!」 「すぐに手術の準備を!」
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