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「お願いナオミぃ。後生だから、寝かせてぇ……でなきゃ死んじゃう~」
「それなら心配ないわ。昔から『眠い』で死んだ人間は数えられるくらいしかいないから」
「数えられるくらいはいるんじゃな~い。うわ~ん」
本当に一人くらいは居たかもしれない。だから『一人もいない』などとは言わない。ナオミは、そういう意味では潔い女性だった。
「ナオミのぉ……人でなしぃ~」
「なんとでも言いなさい。引きずってでも連れて行くわ。でないと、私があの子たちに怒られるんだから」
非難の言葉にもまったく動じない。ナオミはアンナを文字通り引きずって洗面所へと向かう。
「と・に・か・く、早いとこ身支度を済ませちゃって。向こうに着いたら好きなだけ死んでいいから」
もはや、遠慮も容赦もない物言いに、アンナはぐったりとうなだれた。
アンナは『おに、あくま~』と小声でぼやいていたが、ナオミはもはや耳を貸していなかった。もう問答をする時間すらも惜しかったのだ。
今日は、自慢の子供たちの晴れ舞台。
時計は着実に進み、残された時間は、かなり逼迫していた。
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