寝室

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その女性はドアの前に立ち、やや遠慮がちにノックした。固い音が静寂の中に響く。 ノックしてから、別に何も遠慮する必要が無い事を思い出す。何故なら、彼女は部屋の中の人物を起こしに来たからだ。しかも『叩き起こしてよい』という約束まで取り付けてある。 それでもなお、遠慮が先立ってしまうのは、仕事柄『睡眠を妨げる行為』に無意識の抵抗を感じるからだろう。いや、正確には『場所柄』というべきか。相手が寝不足だという事ならば、それは尚更のことだ。仕事を始めた頃は『こういうのを職業病というのか』などと思ったものだが、どうやらその病気は脳髄まで感染してたらしい。 しばらく待っても返事がない。嫌な予感をおぼえ、再びドアをノックする。今度は少し強めに。 「ちょっと、起きてる? もう3時間たったわよ!?」 ドア越しに声をかけてみるが、全くの無反応。質素ながらしっかりとした造りのドアは、相変わらず沈黙を守っていた。
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