~夜刻、文来るは我が心を深く刻むる~

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  画面を見た神楽の目に異質な光景が飛び込んできた。   「………何だ…、このアドレス……。 …文字化けしてやがる………」   そう、送られてきたメールは送り主のメールアドレスが文字化けして、意味を成していなかった。 多くの人はメールアドレスに意味を持たせるだろう。 誕生日、名前……と言ったふうにだ。 適当なものにしている人間もいるにはいるが、アドレスを変更するにしてもこんなアドレスに変えたがる様な人間を知らなかった。 そもそもこんな趣味の悪いアドレスにするだろうか? いや………、不可能な……はずだ…。   『from iiugsiかjlぐ△◇ra@do‐・o.c.j‐』 理解が出来なかった、……が神楽はゆっくりと決定ボタンを押した。 画面が切り替わり、文章が表示される。   画面に映った文字を目で追いながら、とりつかれたように…………読んだ。   「……あれから三年が経ちました…。 つきましてはあなたに貸していたもの、借りていたもの………全てを元に戻そうと思います…。 ……………朝倉(アサクラ)…弖虎(テトラ)…………」     そこに書かれていた名前に茫然とした。 底冷えするような感覚が足元から登って、脳に伝わってくる。   「はっ、馬鹿馬鹿しい。弖虎は三年前死ん…………」   『死んだ』と言おうとして、神楽は言葉を止めた。 止まった。 永らくして、つかえた言葉を口にした。   「…………んだんだよ…。 そうだ…死んだんだ……。 俺を………かばって…」   長い……長い………………永遠にも似た沈黙があった。   「ふっ、何を考えてるんだ、俺は。 こんなのどっかの馬鹿がやったタチの悪いいたずらに決まってるじゃないか……」   自嘲めいた響きの語と共に、もう一度画面を見た。 一番下にP.Sと書かれた一行が存在を主張していた。   「………P.S……今回は貸していた1200円を返してもらいます…」   やけに引っ掛かる金額だった。 中途半端で……現実味を帯びていた。   「……1200円………?」   また呟いた。   「何マジになって考えてるんだ、くだらない…」
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