~夜刻、文来るは我が心を深く刻むる~

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死んだ人間の名前を使ってイタズラメール。   神楽の中には言い様の無い怒りが立ちこめていた。 その一方で言い知れない何かに追われているような、どちらも不確定な感情が生まれていた。   「くだらないっ!」 神楽はその思索を断ち切るべく、机を殴り付けた。 鈍い音がして、堅い表面に叩きつけられた拳が熱を帯びて赤く染まっていく。 お構いなしに、神楽は机を殴り続ける。 何度も、何度も。 ジーンと広がる痛みにも、皮膚が裂け、机の上に散る血にも構わなかった。 痛みが感覚を支配していく。 世界の中心がずれていく。  ――何も考えたくなかった――     しばらく経ってようやく殴るのを止めた。 拳には凝固した血がこびりつき、赤黒い血が机に花を咲かせていた。 机の殴られた部分は浅くくぼみ、流れた血が小さな血溜りを為す。 生きている証……。 否定したがる自分がいた。     神楽はふらふらと壁ぎわに近づいて部屋の明かりを消した。 何も見えなくなる。 見たくないものが閉ざされる。 暗闇の中、手探りで椅子を探すと深く腰掛けた。 息の荒くなった身体に空気を取り込む。 酸素がいっぱいになると、自然にしたがって、その全てを吐き出した。 呼吸が落ち着くとそのまま背もたれにゆっくりと体を預け、目を閉じた。   あとからあとから頼んでもいないのに脳が記憶を掘り返してくる。   やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろやめろ やめろやめろやめろ やめろ やめろやめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろやめろ やめろやめろやめろ やめろ やめろやめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろやめろ やめろ やめろやめろやめろやめろ やめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ やめろやめろ!!!! どす黒い感情が渦を巻く。冷や汗が止まらない。 寒い。 胸を押さえ付けられているかのようだった。      ……それから神楽は朝まで浅い眠りを繰り返していた。
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