~明ける異世、明けぬ現世~

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      打ち上げからの帰り道を君信と二人で歩いていた。   「あー、歌った、歌った!歌いすぎでマジ喉痛ぇ」   「よく言うよ。ほとんど女子と話してたくせに」   「それだけ俺には余裕がないんだよ!! …………にしても意外だよなぁ。神楽って洋楽歌うんだな」   心底不思議そうに君信が呟く。   「しかたないだろ。最近の曲知らないんだから」   「お前が洋楽なんか歌うから、俺の影が薄くなるんじゃねぇか!!」   「知るかよ」   「『かっこいい!神楽先輩って洋楽歌うんですね。素敵です!』ってちやほやされてさ。 『先輩!これ私のアドレスです。メ、メールお願いしますっ!』 『あ、ずるーい。私も、私も!』 『私にもメールください!』 ………………今日お前何人の女子からメアド貰ったんだよ!?」   いつものごとく声色をかえて小芝居をする君信。 もう慣れ………ないな、やっぱり。   「…11人……位か?…登録してないけど」   とりあえず指折り数えてみる。確かそのくらいのはずだ。   「ほとんど全員じゃねぇか!」   「知らん。勝手に渡されたこっちの身にもなってみろ」   「うらやましい」   「あぁ、お前に聞いたのが間違いだったな」   「なんだとぉ!」   …………このやり取りに何だかデジャブを感じつつ、とるに足らない会話を続けていた。 君信の声がキンと響く。 低いくせによく通る声だ。   「うるせぇなぁ……。 色々悩んでんだよ」   「何だ。女の悩みか? このヤロー、興味ねぇフリしてやっぱり……」   「ちげぇよ!」   君信の戯言を止める。 君信の直接的な感情が、今の神楽にはひどく苛立たしかった。 自分に敵意が向けられている錯覚に陥って怖い。 殴り飛ばしてでも黙らせてしまいたかった。   ………様子がおかしいことに気付いたのか、君信にようやく気遣いという選択肢が表れたようだった。   「……マジで………なんか悩みか?」   「お前には関係ない」   …言ってしまってから後悔した。 俺はまた……。   「はぁ?何だよ、話してくれてもいいだろ?」   頭が急に冴えていく。 ……謝らなきゃ………。 そう思う心とは裏腹に、口は違う言葉を紡いだ。   「…必要ない」   ……駄目だよ………。 『自分』は無視された。 場の空気がスッと冷えていく。 氷の上にでも立っているようだ。 ……そう思うと何だか舗装された道のコンクリートが急に氷に見えてきた。 ………冷たい。
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