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交通量の少ないこの辺りもさすがにこの時間は家路を急ぐ車で賑わう。
俺たちの横を一台のバスが通り過ぎていった。
「大体お前はなぁ……そもそも自覚ってもんが…」
うつむいたままの君信が弱々しい声を出した。
「あれ、お前の乗るバスじゃねえの?」
それには答えず、神楽は今通り過ぎたばかりの―――――ボディに描かれた少年の表情が憎たらしい赤い市営バスを指し示した。
「…んなことどーでも……よくねぇ!!
あ、…あれに乗らないと次のバスは一時間後じゃないか!」
あわわわと焦りまくっている君信を尻目に、何故か少年の絵を神楽はじっと眺めていた。
中学生をモチーフにして描かれた――――絵――。
ブォォォォォン!!
隣を通り過ぎたトラックの騒音でハッと意識が現実に引き戻された。
あわあわとほうけていた君信はその間に何か思いついたようだった。
「あ!そうだ。神楽が一緒に待ってくれるなら……」
そちらに目は向けていないが、こういう時の君信はニヤニヤしながらこちらの顔色をうかがって、チラチラ見ているに違いない。
…………………………………………………………………………………………………………やっぱり……。
「いやだ」きっぱり言った。
「ですよねー。…オニ!アクマ!パイナップル!八ツ橋!
あん、待ってーー!
マイ、バス!ディアー、バス!ヘイ、プリーズ、ウェィッ!!
俺は、家に、帰るんだぁぁ!!」
自分の意見が瞬殺されてようやく、すでに小さくなってしまったバスを追い掛け全力疾走で駆けていく。
うぉぉぉぉあという声が次第に聞こえなくなっていった。
神楽は、がんばれ君信まけるな君信、お前なら追い付けるさ。…特に根拠はないけれどとあくまでも心の中だけで思った。
「…にしても…最後のは悪口じゃねぇだろ、八ツ橋って…」
しみじみと呟く。
ふ、…と空を見上げた。
薄い青に焼けるようなオレンジが侵食して、塗り潰していくような……そんな空だった。
青とオレンジが攻めぎあって、混ざって消えていく。
何も残らない境目には、ただただ虚があるだけだった。
……まるで俺みたいだ………。
自分でもくだらない…………。
そう、くだらないと思った。
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