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神楽の体がふっと崩れ落ちた。
「……え…………?」
口から間抜けな声が漏れる。
溢れる血が刃を染め、衣服を染め流れ落ちる。
「…ひ、ずみ………さ…。か…あさ……?」
困惑が頭を支配する。
傷の痛みが思考を阻む。
内蔵をも傷つけた腹の傷がぬるりとした感触を伴って広がっていく。
「懐かしいねぇ……。お前達いつも一緒に遊んでたっけ…」
突然緋純がそんな事を言いだした。
およそこの場に相応しくない、古くを懐かしむ声音。
何かに酔ったようなほのかな狂気。
漂う威圧感。
やさしい笑みは嘲笑へと変わり、自制を失ったかのように溢れ出る。
「な、……な……んで…?」
「あんなに小さかったのにさぁ………」
緋純の表情が巡り巡り変わる。
昔へ思いを馳せる心、悔恨、恋慕、………そして一際多くを占める『憎悪』
「…………」
その憎悪の矛先は他ならぬ。
―ツヅキカグラ―
「ずるいじゃないか……神楽…」
ゆっくりと確認していくような喋り方。
けれど少しずつ神楽を追い詰めていく。
「弖虎が死んで…お前だけ生きてるなんて……さ」
静かな、しかし明らかなる敵意と『殺意』
「…やさしい子だったんだ。自慢の息子だったよ。……………………何で死んだの?」
冷たく言い放つ。
「何で死ななきゃならなかったの?」
血が抜けていく恐怖と向けられる敵意への恐怖。
二つの恐怖に挟まれた神楽は床を這い回った。
「…ひっ……っ。…ふぁっ…………」
藻掻いて藻掻いてこの場からなんとか逃げようとする神楽。
藻掻いた後が血の痕跡を残して延びていった。
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