~黄昏、日を経る時あれど、我に文或るは誰そ彼れと思ふ~

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~黄昏、日を経る時あれど、我に文或るは誰そ彼れと思ふ~

    ……いつもの変わり映えのしない道を都月神楽(ツヅキカグラ)は歩いていた。 通学カバンを担ぎ、紺のブレザーで身を包んだ姿はどこから見ても高校生だ。 胸には校章と『2-B』と印された組章が、夕日を浴びて鈍く光っている。   しかし、『只の』高校生というには少し語弊があるかもしれない。 端正な顔立ちに、色素が抜けて自然な茶に染まった髪。   いわゆる『イケメン』というやつであろうか? とにかく女子に人気がありそうな面立ちだった。     海岸線沿いの道を、神楽は状態の悪いアスファルトの上を自宅へと歩いていた。 不快な一日だった。   ……この辺りは交通の便が悪い。 バスなど一本遅れるだけで一時間待ちなどざらだ。 家の近い、徒歩組の神楽には何の関係もないが。   ぼんやりと海を眺めながらトロトロ歩いていた。 その時ポケットに入れた携帯から耳に付く着信音が鳴り響いた。 神楽は制服のポケットに左手を突っ込むと、取り出した携帯を器用に片手の親指だけで開き、夕焼けの空気に混じる中、人工光を放つ画面に目をやった。   メールに目を通した神楽は、携帯を持っている者ならば一度くらいはやった事のあるであろう独り言を呟いた。   「打ち上げのお知らせ……か」   独り言に返事を期待するはずも無いのだが、その呟きに後ろから答えるものがあった。 ……わざわざ体当たりというおまけ付きで。   「何、何?何のメール?………もしかして、彼女?」   調子の良い明るい声が降ってきた。しかもピッタリと密着した頭の上から。 傍から見れば奇妙な光景だろう。 何せ180㎝程もある背の高い、神楽と同じブレザーを身につけた学生が170㎝程度の神楽の頭に自分の顎を乗せ、肩に抱き掛かるようにしているのだから。   普通、大男が馴々しく抱きついてなど来ようものなら嫌悪感MAXの処刑ものなのだが、なぜだかこの男はそうさせるような空気を持っていなかった。 顔は良いのだが、チョロチョロとした小動物のような印象を受ける。 そのような雰囲気がそうさせるのだろうか、なかなか憎めない。 むしろ見ていて和むくらいだ。     ………かと言って男に後ろから抱きつかれて喜ぶ奴などいない。 いや、いるかもしれないが少なくとも自分はそんな趣味は持っていない。 それが普通だ……………。
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