九月二八日

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「申し訳ないが、前回損傷したこれが時間不足でまだ定着しきっていない。いつ腐りだすともしれないから、短期戦となる」 「構いません。長引くならまだしも、早く終わる分には大歓迎です。ところで、Mカンパニーの内部事情と、今回の件についてですが」  右手でハンドルを操りつつ、No.21は資料のファイルを引き寄せた。 「結構厄介ですよ。とりあえず先にホテルへ向かいます。Mカンパニーへは、午後にアポをとっていますが、よろしいでしょうか」  右手にハンドル、左手にファイルという、いつ事故を起こしても不思議ではない体制で、No.21は同意を求めた。  だが、幸運にもその危機は長く続かず、前方に見える信号は、彼らに停まるよう無言の命令を下した。  赤茶けた大地を走る直線道路には対向車線も含めて、他の車影はまったく見られない。  それをよいことにNo.21は路肩に車を寄せ、しばしの違法駐車を決め込んだようだった。 「構わないが、現状が詳しく知りたい。数式で頭に入っていても、どうも現実味がない」  抑揚のないNo.5の言葉の端々に苛立ちを感知して、No.21はあわてて手にしているファイルを差し出した。
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