九月二八日

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 マルス最大級のホテルと言う売り文句は伊達ではなく、内部の設備や調度品は見事な物で、どこかの宮殿にでも迷いこんだようだ。  だが、さすがにMカンパニー関連の資本が入っていることはあり、一筋縄ではいかない。  ロビーや廊下のそこかしこに、ある特定の一部に向けられた『防犯』カメラが設置されている。  注意してみなければ解らないが、職員やガードマンの中にも不穏な空気を醸し出している者が混じっている。  No.21の、気を付けろとの言葉の意味を理解し、No.5は滞在することになった部屋の隅々に視線を巡らせた。  シングルではあるが比較的ゆったりとした室内には、数ヵ所に盗聴器が仕掛けられているのは明らかだった。  苦笑を浮かべながらNo.5はテーブルにつき、先ほど受け取ったファイルに改めて慎重に目を通した。  スパイ嫌疑をかけられ拘束されているのは、生産管理部門の女性。  名はクレア=T・デニー。歳は二十七歳となっている。  勤務態度は真面目な彼女が拘束される原因になったのは、一枚の写真である。  たまたま研修先の工場で撮った記念写真の背景に、企業機密が写っていたという。
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