473人が本棚に入れています
本棚に追加
*
訓練期間を終えた彼の立場は、かなり微妙なものだった。
このマルスと言う惑星の周囲を回っている衛星フォボスにおける内乱に一応の休戦状態に導いてから、約二ヶ月が経とうとしている。
その間、彼に与えられた任務は、ひとまずマルスにて待機、というものだった。
正式にマルスに籍を置く訳でもなく、テラに帰還を命ぜられるでもなく、ただ一市民として待機。
上から割り当てられたホテルの一室で、情報収集も兼ねてテレビを見ながら時間を潰す。これがいつの間にか彼の日課になっていた。
おかしい、と引っ掛かったのは、一週間が経ったくらいの頃だろうか。
マルスから発信されている情報は、すべてどことなく似ている。
これは偶然なのだろうか。
違和感から更にテレビに張り付くこと、しばし。やはり、どことなくおかしい。
ニュースは各々、似たような内容を取り上げ、『綺麗なモノ』しか伝えようとしない。彼が今まで関わっていた隣の星で行われている内乱は、思い出した程度にちらりと取り上げられるだけだ。
生気……生臭さを感じさせない報道。
違和感を強くした彼は、次の行動にでた。すなわち、新聞、雑誌を読み漁る。だが、やはり得られたのは奇妙な違和感だけだった。
最初のコメントを投稿しよう!