九月二八日

2/29
前へ
/93ページ
次へ
 穏やかな衝撃と共に、彼は目覚めた。  テラからマルスへと向かうわずかな時間で、どうやら彼は眠っていたらしい。  今まで飽きるほど眠っていたはずなのに、と普通の人間なら苦笑いの一人でもするところだろうか。  宇宙船の窓に映る自分の姿を見つめながら、彼はそう分析した。  長引く植民星フォボス独立争乱の影響だろうか。マルスのロサ宇宙港は行き交う人もまばらである。  そのロビーに降り立った彼を、笑顔を浮かべ手を振って出迎える者がいた。閑散とした港内に、男の明るい声が響く。 「アンドル=ブラウン少佐殿?」  その声がした方向から、背中に届く薄茶色の髪を一つにまとめた若い男が近寄ってきた。  ダークスーツににトレンチコートという、どこにでもいるビジネスマン風の客人と、ノータイに加え長髪というラフな風貌の男。  両者がならんで立つ姿は、どことなく不釣り合いなものだった。  だが、そんなことをまったく気にする素振りも見せず、人好きの笑顔を浮かべている男に対し、客人は表情を動かすことなくうなずき返した。 「お忘れですか? この間フォボスでお世話になった……」
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

473人が本棚に入れています
本棚に追加