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穏やかな衝撃と共に、彼は目覚めた。
テラからマルスへと向かうわずかな時間で、どうやら彼は眠っていたらしい。
今まで飽きるほど眠っていたはずなのに、と普通の人間なら苦笑いの一人でもするところだろうか。
宇宙船の窓に映る自分の姿を見つめながら、彼はそう分析した。
長引く植民星フォボス独立争乱の影響だろうか。マルスのロサ宇宙港は行き交う人もまばらである。
そのロビーに降り立った彼を、笑顔を浮かべ手を振って出迎える者がいた。閑散とした港内に、男の明るい声が響く。
「アンドル=ブラウン少佐殿?」
その声がした方向から、背中に届く薄茶色の髪を一つにまとめた若い男が近寄ってきた。
ダークスーツににトレンチコートという、どこにでもいるビジネスマン風の客人と、ノータイに加え長髪というラフな風貌の男。
両者がならんで立つ姿は、どことなく不釣り合いなものだった。
だが、そんなことをまったく気にする素振りも見せず、人好きの笑顔を浮かべている男に対し、客人は表情を動かすことなくうなずき返した。
「お忘れですか? この間フォボスでお世話になった……」
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