九月二八日

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 そこまで言いかけて、長髪の男は何故かあわてて口をつぐんだ。  それを意に介する様子もなく、一方的に話しかけられていた側は軽く手を挙げ小さく敬礼すると、ようやく口を開いた。 「前置きはともかく、現状は? デイヴィット=ロー中尉……いや」  一端言葉を切ってから、アンドル=ブラウンと呼ばれた男は、ゆっくりと、かつ周囲に聞こえない位の大きさの声で、噛み締めるように言った。 「No.21」  その言葉と同時に、長髪の男は背筋を伸ばした。先ほどまでの笑顔は、すっかり消えている。 「『ヒト』を装っても、見るものが見れば我々の正体など、すぐに解る。所詮は無駄な努力だ」  そしてまた小声で、自分のことも周囲の目が無いところではわざわざ『名前』で呼ぶ必要はない、と付け加えた。  それを聞き、出迎えに来ていたNo.21の顔に再び笑顔が戻った。 「失礼。自分は気に障ることでも言ったのかと心配していたところです。申し訳ありません、No.5」 「『システム』の違いは仕方のないことだ。私がスクラップ寸前の旧型であることは事実なのだから」  穏やかではあるが、まったく抑揚のない話し方もそのせいなのだろうか。  分析しかけたNo.21の思考回路を、再び平板な声が遮った。 「時間がない。詳しい話しは、道すがら聞こう」 「アイ・サー」  ではこちらへ、とNo.21は自ら先へ立って、地下へと進む。  そして、『二人』の姿は、駐車場の中へと消えていった。
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