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オクタスが再び目を覚ましたのはきらびやかな寝室の中だった。
そこは王宮の一室にふさわしく何とも豪華な造りで、オクタスはその部屋の寝台の上に一人横たわっていたのだ。
寝台に敷かれていたのは絹のシーツ。壁には薔薇の模様に織り込まれたタペストリー。
床には幾何学模様に織られた真紅の絨毯。そして薔薇の気高い香りが微かに漂っていた。
眠っている間に着替えもさせられたのだろう。絹の寝間着の肌触りの良さを感じながら、オクタスは眠りにつく前の記憶を辿りはじめていた。
真っ先に浮かんできたのは王の姿ではなくあの女の面影だった。
女は笑ったことを詫びながら慣れぬ手つきでお酌をしてくれた。
オクタスが酒を気に入ったとみると女は何回も注いでくれた。
今更後悔しても遅いが、酒というものは程ほどにしておくべきものだ。
あのような甘美なひとときなどそうそうあるものではないというのに……それが酒によって台無しになったのだ。
せっかく尋ねたはずの名前さえも記憶から消えていた。
覚えていることと言えば、女の愛苦しいほどの美しさと、あの無邪気な笑い声だけだった。
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