序章

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 もはや天に祈る他はなかった。    国中から集められた精鋭たちの応戦も虚しく、難攻不落と謳われた城壁は、ついに幾万の敵兵によって、その一角が崩されたからだ。    崩落する城壁の轟きは、最期の時を告げる非情な叫びとなって城内にひしめくすべての者たちの胸の裡に響き渡っていった。    猛々と立ちのぼる土煙の中からやがて敵兵の姿が浮かびあがってきた。    その血に飢えた略奪者の群れは一斉に城内へと雪崩れ込み、最後の抵抗を試みようとする守兵たちに次々と襲いかかっていった。    敵の勢いはもう誰にも止められない。  天の助けに最後の望みを託した祈りも虚しく、憐れな命乞いの叫びすら敵の嘲りの声に掻き消されていった。
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