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「大丈夫よ。月読みを死なせずに研究に集中させることができるなら安いものよ。それだけのプレッシャーが、この仕事にはあるということだけど」
言わんとしたことを読み違えたらしい。言いかけて言葉を飲み込んでしまったラナにマーニャは励ますようにそう言うと、給仕に二人分の食事を注文した。
この立ち居振る舞いを覚えておかなければならないとラナは思った。来週からは、マーニャはいないのだ。
給仕が離れるのを待ってから、マーニャは身を乗り出してきた。つられてラナも顔を寄せる。
「ここが指定されているのは理由があるのよ」
そう囁くと、マーニャは辺りをそっとうかがった。昼食にはまだ早い時間。二人の他に、客は誰もいない。
「指定されているのはここだけじゃないわ。月読みの本を手配する店も、食材を仕入れる店も。用事を済ますには、それなりに警備のしっかりした信用できる所じゃないとダメなの」
ラナは眉を寄せた。マーニャはかまわず続ける。
「国を動かすだけの月読みの予言よ。喉から手が出るほど欲しがっている人はいると思うわ」
「それは、狙われてるってことですか」
「可能性があるということよ」
給仕がこちらをうかがっている。
ベストのタイミングでサービスを提供するために、いつでも動けるようにしているのだろうが、それすらもうさん臭く思えてくる。
「だから、気後れするからって、別の所を利用なんかしちゃだめよ」
どうやら、特権というより義務だったらしい。ラナは、はい、と頷いた。
タイミングを見計らったように料理が運ばれてきた。
マーニャが、場に慣れないラナのために選んだのは、香草の利いたパスタだった。テーブル作法を気にしないで食べられるものだ。
つやつやに茹でられたパスタの上には、オレンジ色の具が乗せられ、淡いグリーンのソースが掛かっている。ソースのベースになっている香草はこの辺りで主流になっているものだ。
綺麗に盛り付けられた料理の周りには、オレンジ色の花があしらわれている。おいしそうな香りにつられて、二人はしばらく食べることに夢中になった。
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