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選別の槍が片羽に落ちたらどうしよう。
辺りは休む間も無く光り、重い音を響かせている。ラナはあまりの歯がゆさに窓枠を握り締めた。
その時、ラナは、雷の神の声とは違う音を聞いた。
何かを小さく崩す音。
微かに乾いた小さな音は、すぐに雷の音に消されてしまった。
耳を澄まそうとした時、大きな手がラナの肩を包んだのに気がついた。
振り返ると、真剣な表情のクラムトと目があった。大丈夫と言うように青い瞳が揺れ、クラムトが頷く。
波立った心が落ち着いていく。誰にも雷は落ちない。そう保証されているようだ。クラムトはラナが雷に恐怖することを、ちゃんと覚えてくれていたのだろう。
二人そろって駆けつけたのだろう。マーニャとラナの間に肩を割り込ませたシシルがあれ、と指で示す。
シシルが指した方、片羽のお腹のあたりで何かが動いている。
片羽がちょっとお腹を持ち上げると、小さな頭が覗いた。
雷に照らされながら、その小さな頭は大きく口を開けた。
チイ。
聞こえたはずはない。耳をつんざくような音が辺りを支配したのだから。
それでも確かにその誇らしげな声を、ラナは聞いたと思った。
片羽のお腹の辺りは、まだもぞもぞと動いている。雨が掛からないようにしっかり抱きかかえているが、いらなくなった殻がぽろりと巣から落ちた。
白い殻を割って雛が孵るのを、手に汗を握りながら四人で見つめていた。時間が感じられない。雷が弱まり、止んだことにすら気付かなかったほどだ。
無事に四羽の雛が孵ったころ、雨はすっかり止んでいた。軒から垂れた水滴が、ぽたぽたと音を立てている。
隣ではマーニャが涙ぐんでいた。
誰も声を発しない。お互い満ち足りた表情で頷き合い、そっと調理場を離れる。
何か口にしたら、感情がこぼれ落ちてしまいそうだった。
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