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麓に向かうシシルを見送った後、ラナは調理場の窓に体を預けて外を見ていた。
柔らかな陽光を体いっぱいに浴びながらチュクチュクと鳴く小さな鳥たちを眺める。
「ここにいたのね」
お腹のだいぶ張り出してきたマーニャが調理場に入ってくる。今日の食事当番は彼女だった。
「片羽はどう?」
マーニャも窓の向こうを覗き込む。
「相変わらず、必死に餌を運んでます。やっぱり、うまく飛べないのは辛いですね」
最近、雄は姿を見せない。
片羽は雛たちに餌を運ぶ。地面の虫をつつき出しては跳ねるようにして岩場に戻り、飛びにくい羽で巣まで飛び上がって順番に雛の口に押し込んでいく。
一匹が口を閉じるとまた地面へ。
ラナもパンを用意してやったが、雛にはタンパク質が必要なのかもっぱら虫をつついている。
そして飛び上がって別の雛へ。
だいぶ大きくなった雛たちは食欲旺盛だ。片羽に休む暇も与えずにチュクチュクと催促している。
「あの子を見ていると勇気づけられるわ」
マーニャがぽつりと呟いた。微笑を浮かべ、片羽を見つめる。
「大切な人はもう目も向けてくれない。けれど必死に、次の代を育てていくのね」
マーニャと婚約者は何度か手紙のやり取りをしていたが、数日前、結局破談になってしまったと言っていた。
何が原因かは分からない。婚約者の耳にマーニャの妊娠の件が入ってしまったのかもしれないし、産まれてくる子にずっと付いているために、マーニャから切り出したのかもしれない。
ラナは詮索しようとはしなかった。全く無駄なことをさせられた、とも思わなかった。
それはマーニャたちの問題であるし、ラナが奔走したのは、また別の話だからだ。
今のマーニャのほほ笑みは、娼館で女性たちが浮かべていたものと似ている。
「あの子たちは元気に育ちます。何にも振り回されることなく、自分の翼で飛びます」
私の予言は当たるんです。
二人は互いに顔を見合わせて吹き出した。
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