歩み寄り

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「最近ね。お腹の子さえ守れれば、彼と一緒になれないことなんてちっぽけなことだと思えるの」  マーニャはそっとお腹を撫でた。お腹だけでなく顔の線も丸みを帯びたマーニャを、ラナは美しいと思った。  表面的な美しさではなく、内面的な、マーニャのずっと奥からにじみ出てくる美しさ。そしてそれは、力強さも兼ね備えている。  これから一人の母として、子を育てていくための力強さ。マーニャは女性から、母になろうとしている。  ラナは同じものになれないことは知っていた。けれど、可能な限り同化したいと思った。 「彼の迷惑になることもあるけど、あなたとクラムトさんを見ていたら、私と彼の関係は何だか違うような気がして」 「いろんな形が、あるのだと思います」  最近ラナは、再びクラムトと話すようになった。  お茶を飲み、本を眺め、時に地上を眺めて月読みの手伝いをしながら。  クラムトは、シシルたちが山に上がって来る前と何も変わらなかった。嬉しそうに本の話をし、おいしそうにお茶を飲んで。  ラナが心配するようなことは何も無かったのだ。  正直、大切な人の子を身ごもれるマーニャを、ラナは羨ましいと思っている。幸せを感じていたマーニャが、輝いていたことも間違いない。  ただ、マーニャと婚約者の間には人が作り出した壁があっただけ。 「うん。今でもあの人が好き」  はっきりそう言えるマーニャを、うらやましいと思った。  片羽が雛に餌をやる。うまく飲み込めなかったのか、雛は大事な餌をぽろりとこぼした。  片羽は岩の端から勢いを付けて飛び下りると、再び餌をくわえて飛び上がった。 「でもしばらくは、あの子のように育てるわ。飛びにくくても、この子がお腹を空かせることがないように」  だから、とマーニャはラナを抱いた。 「ラナは私の側にいて。私が挫けそうになったら、また抱きしめて。どこにも行かないで」  ラナの肩にマーニャの額が押し付けられる。けれどマーニャは泣かなかった。泣きそうになるのを健気に耐えた。
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