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みんな元気でやっている。そして、この出産を喜んでくれているようだった。
そして、いつでも戻っていらっしゃいと手紙は締めくくられていた。
受け入れてくれる場所がある。
それでももう少し、クラムトと共に、ここで雛たちが巣立つのを見守っていたい。
数日後、シシルが所属する館の手引きで、ラナはクラムトと共にアルドネの巫女たちに会うことになっている。
深夜、しかも部屋番の気を逸らしている間だけなので、長い時間を割くことはできない。それでも、できるだけのことを伝えようと思っている。
故郷から飛び立つのは、少し怖い気もするけれど。
シシルの所属する館の女性たちは、影からラナたちを支えてくれている。細かな情報を集め、時に操作し、こうしてアルドネの巫女たちとも繋いでくれる。
たまにカナル山を登ってきて激励していったりするから、子どもが産まれてからは更に賑やかになるかもしれない。
「私はどこにもいきません。ずっとマーニャさんを見ています。シシルさんのことも館のみんなも。そしてこの子を全力で守ります」
マーニャのお腹に手を当てて、ラナはにっこりとほほ笑んだ。
「私はアルドネの巫女です。神は私を愛してくれ、私の愛する全てを愛してくれます。神は私の中に入り、愛を生み出してくれます」
マーニャがラナの目を見つめる。涙がいっぱいに溜まった目で。
「クラムトさんはラナのことが好きよ。だから――」
二人で逃げて。
その言葉が出る前に、ラナはマーニャの口を指で封じた。聞いたら従いたくなる魅力的な言葉。
「今のままで十分」
目を閉じてラナは呟いた。
岩場には忙しそうな鳥たちの鳴き声が響き、空は薄青く霞んでいる。
その真ん中に白い月。
ラナの呟きは風に乗り、空へと運ばれて行った。
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