塔の上の変人

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「おはようございます」    ラナは勢い良くドアを開けた。目玉焼きと温めたミルク、焼きたてのパンの匂いも一緒だ。さすがにこれなら相手も起きるだろうと思ったのだが、甘かったらしい。  共同生活一日目、まだ相手の行動が掴めない。  ベッドはもぬけの殻だった。  上掛けは乱れているのでベッドに入ったのは間違いないのだろう。ラナが朝食作りでバタバタしている間か、起きる前かに移動完了したらしい。  行き先は、多分書庫だ。  カーテンがしっかり閉められていたせいで、相手が起きていたことに全く気付かなかった。  ラナはカーテンを開けるとついでとばかりに窓を開け放った。さっと白い光が射し込み、部屋全体が明るくなる。夜の衣を脱ぎ捨てて、部屋は一気に華やかな気配だ。  上掛けをはがす。昼辺りには陽はベッドに降り注ぐだろう。今夜寝るまでにはふかふかになる。  部屋から持ち出した上掛けを干し、そのまま書庫に向かう。扉に耳を当てて中を窺うが、コトリとも音がしない。  それでも、とラナは思った。昨日の様子から察するにこの中で間違いないのだ。  ラナはゆっくりと扉を開けた。       * * * 「朝起きたらまず、挨拶をしてください。いるのかいないのか分からないのでは困ります」  パンをゆっくり飲み込んでから、目の前の男性に声を掛ける。声にトゲトゲとしたものが混ざるのは、何も朝の挨拶が無かったからだけではない。 「あと、お好きなのは分かりましたけど、食べる時まで本を持ち込まないでください」  やっと男性が顔をあげ、ずり落ちた眼鏡を押し上げた。空のように青い瞳が、しげしげとラナの顔を見る。 「失礼でしょう。命を捧げてくれる食べ物に。私たちは、味わって食べる義務があるんです」 「それはそうだね」    男性は笑って見せると、おっくうそうにしおりをはさみ、仕方なさそうに本を閉じた。  やれやれ、うるさいのが来た。
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