196人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫ですよ。だいたい体がそういう風になっていますから、起きられます」
クラムトがラナの考えを見透かしたように言う。
「ついでにベッドの準備も不要です。寝過ぎちゃいますからね。後の時間は書庫で調べ物をします」
言いながら本を開く。先ほど読んでいた辺りを探すように視線が移動していく。
「まさか、書庫で寝るんですか?」
ラナは書庫の様子を思い浮かべた。確か奥の方に小さな机とイスがあったはずだ。
この研究所の書庫はラナの知っている神殿の書物室とは大きく違っていた。
二階までの吹き抜けの壁に、天井まで棚が設置されている。
それだけでは足りなかったのだろう。壁に平行して並んだ本棚が何段も重ねられて配置され、さらにそれも上へ伸びていき、ちょうど二階に相当する部分に足場が組まれている。
それでも入りきらない本は足元に積み上げられていた。
神殿の書物室は、手を伸ばせば届くくらいの本棚に、きちんと区分されて本や書類が納められていた。初めての人でもたやすく本を探せるように。足元に積み上げるなんてもっての外だ。
ここの書庫では、クラムトでなければ必要な本を探し出すことは無理だろう。彼にとっては居心地の良い場所らしい。
クラムトはもう何も言わなかった。否定しないのが肯定の意味らしい。視線を右手に持った本に固定したまま席を立つと、よろよろしながら食堂を出ていく。扉にぶつかりそうになっても意に介さないようだ。
ラナは深く溜め息を付く。
仕事なのだ。仕方ない。
前任者の口癖が無意識に口を突いて出て、ラナはがっくりと肩を落とした。
ラナに与えられた仕事はクラムトの身の回りの世話と、簡単な研究の補助だ。
クラムトの研究は国政を左右する。
不吉な星が出れば今やっている事業を中止、または計画を変更しなければならない。運気が良ければ戦争を仕掛け、作物も多めに植える。この国では月を読むことで成長してきたのだ。
神託を読み解く月読みは、神にもっとも近い存在とされる。
その身の回りの世話をする者は、大変重要な仕事を任されたことになる。
そしてラナの考えが正しければ、それ以上の意味も担うのだ。
最初のコメントを投稿しよう!