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まだ五日だというのに、町の喧騒(けんそう)が懐かしく感じられる。空気は汚れているが、明らかに密度が濃い。人々の密度がそこに表れるようだ。
休日のためか、広場には路上に品物を並べる店が連なり、威勢の良い呼び込みの声が飛び交う。その中を、買い物かごを提げた婦人が厳しい目で品定めをしている。
小遣いをもらったのか、お菓子を買った子ども数人がはしゃいで走り回り、その一人が広い背の男にぶつかって盛大に叱られている。
しばらく前までは戦が始まると緊張が高まっていたはずだが、緊急事態の解除された町は活気に溢れていた。
ラナはラバに噴水の水を飲ませながら、大きく伸びをした。
今日はマーニャと待ち合わせだ。月読み専用に無料で食材を分けてくれる商店を教えてもらい、クラムト用の本を運んで帰るのだ。
月読みの結果も届けなければならない。やることは山積みだ。
しかし、開放されたように感じるのは、やはり無口な同居人のせいだろう。
あれからもラナは、歩み寄ろうと試みた。
事あるごとに話しかけ、書庫の掃除を手伝い、気になったことは溜めずにはっきり口に出した。
もちろん、家事は手を抜かず、クラムトが入浴を嫌がるのを無理やり入らせたりした。
少し鬱陶(うっとう)しがられている気配がないでもないが、彼が口にも表情にも出さないのでラナも気付かない振りをしている。
それでも、頑張り過ぎたのだろう。
今日はかなり早起きをしなければならなかったにも関わらず、危うく寝過ごすところだった。朝食も摂らずに慌てて出てきてしまった。
「お待たせ」
マーニャの声に振り向く。
体をひねった拍子にお腹が鳴った。
「あらら、山道はきつかった?」
「いえ、朝食を食べ損ねまして」
ラナは苦笑いした。もう十時を回ろうとしている。お昼まで我慢しようとしたのを、お腹が敏感に察知したらしい。
「それは大変」
マーニャは一大事とばかりにラナの手を引いて歩き出した。慌ててラバの綱を引く。首を引かれるように小さなラバも付いてきた。
「頑張りすぎて疲れたんでしょう。特に最初の週はよくやるのよ。町に下りられると思ったら寝坊って」
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