塔の上の変人

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      * * *  マーニャとは麓で別れた。  最後に、月読みの予言は大事だから気をつけなさいと再び念を押された。  誰かに襲われたことでもあるのか、もしそういう場面に遭遇したらどうしたら良いかと確認すると、マーニャは笑って教えてくれなかった。  月読みに聞きなさいと言うばかりで。  天頂に太陽をいただきながら、辺りを警戒しつつ山を登り出したラナだが、半分ほど行った頃には疲れも手伝ってどうでも良くなってしまった。  今日はもう予言を運び終えた後だし、襲われたとしても相手に得はない。  小さな石段を登る。  初めて来た時のようにどこまで続くのかという不安は無いが、それでも湿度の高いこの時期は体に厳しい。ひたすら黙々と体を引き上げる。  これから向かうのが無口な本好きの所だと思うと、余計に気が滅入ってくる。     緩い山道。麓に近い方では太い幹を持った木々が腕を張りだし、汗を拭きながら登るラナに緑の木陰を提供してくれていた。  しかし標高が高くなるにつれて木はまばらになり、足元に小さな花が現れ始める。  ラバは先ほどから、ぶうぶうと鼻を鳴らしている。空気が薄くなり、呼吸が苦しいのだろう。  それでも良く馴らされたラバで、しかも勤勉だ。ラナの歩調に合わせてゆっくり登っていく。  もう少しで頂上だ。  平地に慣れたふくらはぎは既にぱんぱんだ。  これから毎週往復するうちに体が慣れてくるだろうか。  ふう、と一つ息を吐き出して体を一段分引き上げると、冷たい風がラナを迎えた。柔らかな赤い光が頬を照らす。  顔を上げたラナの視界は拓けていた。石段は終わりに近づき、木々はさらに数を減らしていた。  代わりに現れたのは、夕日をいっぱいに浴びた一面の花畑。  上り坂はさらに緩やかになり、青い高山植物がいくつかの勢力に分かれて群生している。
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