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「──……ん、ぅ?」
気が付いたら私はベンチの上に居た。
さっきの二人は……居ない。どうやらこのベンチで休んでいるうちに眠ってしまっていたらしい。
「…馬鹿みたい。あんな……」
人達、と言いかけて、私はあることに気が付いた。
「……無い?」
私がいつも肌身離さず持ち歩いている懐中時計。いつもなら右ポケットに入っている筈のそれが、今は何処にも入っていなかった。
「そんな……!!」
慌てて周囲を見回すが、誰かが拾ってしまったのかそれとも別の場所で落としたのか、少なくとも公園の中には無かった。
「………っ!」
念のためもう一度私は公園の中に落ちていないことを確認すると、出口に向かって駆け出した。
と、もう少しで出口という所で急に視界が真っ暗になり、次に顔に衝撃がきて、視界を遮った何かにぶつかり、私は尻餅をついてしまった。
「あ、すいま……」
「あらら、君、大丈夫?」
せん、と言おうとしたが声は続かなかった。何故なら私がぶつかったのは、さっきの「夢」に出てきた黒縁眼鏡の青年だっからだ。
「え、貴方…なんで……え…?」
「お前はこいつに「旅をしないか?」と聞かれ、突然気を失ったんだ。覚えてないのか?」
黒縁眼鏡の青年の後ろ、やはりさっきの「夢」に出てきた銀髪の青年が呆れるように言った。
「じゃあ…あれは夢じゃなかったの?」
黒縁眼鏡の青年にそう問い掛けると、黒縁眼鏡の青年は苦笑しながら
「いや、急に倒れられて吃驚しちゃってさ。とりあえず近くの公園に運んで休ませて、起きたときの為に何か飲み物でも、と思ったんだけどねー」
と言った。
やはり夢ではなかったらしい。というかそういう場合はどちらかが私の側に居れば良かったのではないだろうか。
「……ありがとう…」
でもまぁ、助けてくれた事には感謝しているのでそう言っておくことにした。
「それで、お嬢さん?」
黒縁眼鏡の青年は私の手を取ると、
「俺達と旅をしませんか?」
さっきと同じことを聞いてきた。
「旅…?」
「そう、旅!旅は良いよ~!北は北極から南は南極まで!」
「それは死ぬぞ、普通に」
笑いながら言う黒縁眼鏡の青年と、それに冷静にツッコミを入れる銀髪の青年。
何故だかその二人が酷く楽しそうに見えて、私は──
「はい。喜んで」
そして、「旅」は始まった。
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