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「さくら!早く‥もっと早く走れっ!」
今にも手放してしまいそうな小さな手を懸命に引きながら、宥兎は叫んだ。
後方を走るさくらは、息を切らしながらも宥兎から視線を離さない。
「もうちょっとだから!頑張れ!なっ!」
振り返ると、さくらが慌ててこくこくと頷いた。
春になったばかりだというのに、彼女の頬はピンク色に染まり、額には汗が滲んでいた。
ドキリとして、反射的に前を向いた。
二つのランドセルが、中で教科書がカタカタと立てている音を聞きながら、宥兎はずっと前を見て走っていた。
赤みがかった空が見下ろす中で、二人はコンクリートで敷かれた静かな住宅街を駆けて行った。
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