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「にしても、エイビドゥ。お前、ファントムが恐くないのか…?」
アゼルが走り続けるエイビドゥに問い掛ける。
「……恐いよ」
「なら、何故行く…? ここにはお前以外にも契約者は他にいるだろうのに」
「だって……大半の生徒はまだファントムと戦った経験がないから、きっと恐くて行かないだろうし、かといって先生達は場所が遠い。つまり、俺が行った方が速い」
淡々とそう話すエイビドゥだが、声は微かに震えていた。
「俺様が聞きたいのはそういうことじゃなのだがな……なら、質問を変えよう。何故そんなに急ぐ必要がある…? 少し待てば、遠くとも先生が来るのだろう」
アゼルの新たな問いにエイビドゥは数秒間沈黙する。
そして、口を開いた。
「早く行かなきゃ。誰かが傷つくかもしれない」
「自分以外の誰かがそんなに大事か…?」
「あぁ。もう……もう、誰もファントムに傷つけられたくないんだ」
エイビドゥの言葉に怒りと悲しみがこもっているようにアゼルには聞こえた。
「もう……ということは以前に経験があるんだな」
アゼルが躊躇いもなく、エイビドゥの過去を掘り出す。
「っ!? そう、俺の家族……いや、俺が暮らしていた村の住人全てがファントムに……殺された。ただ一人俺を残して。俺だけは殺される寸前で旅の契約者に命を救われ、すぐにここに預けられた」
瞳には幾年の月日を過ごしても、枯れない涙が溜まっていた。
普段の彼の明るさは彼の背負う辛い過去を隠す仮面だったのかもしれない。
「それでもう誰も傷つくのは見たくないと……戦うことを決めたと……クク、無謀だな」
「無謀なのはわかってる。だけど、止められないんだよ。体が勝手動いちゃうんだから仕方ない」
明らかに恐怖を隠すための不格好な笑顔を見せる。
「前月撤回しよう。理解した上での行動は無謀じゃない……それは勇気というのだ」
「……ありがとう、アゼル。ちなみに力の使い方や同化のやり方を今教えてくれないか。多分、着いたらすぐに戦闘になると思うから」
「一度しか言わんぞ……」
「わ、わかった覚える一発で……多分」
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