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エイビドゥはまだ慣れない翼に戸惑いながらもぎこちなく羽ばたいて高度を上げていく。
「この高さまでくると流石に怖いかも……」
――このかべ越えたら、もっと恐えもんがお待ちかねだぜ。
「それもそうだね。こんなことでビビってられない」
エイビドゥの顔から戸惑いが消える。
――それにしても、エイビドゥ。
「ん? 何、アゼル」
――何故、お前はこんな黒い翼をイメージした。
普通は鳥や真っ白な翼を思い描かないか?
「んー…何でだろう? 単純に頭に浮かんだ翼が黒い翼だったんだ」
――この翼は悪魔の翼だぜ。普通見たことないものは作り出せない。
お前は俺以外に悪魔を見たことがあるのか?
「ううん、無いはずなんだけど……ただ・・・・」
――ただ、何だ?
「さっき、言った通り俺の村はファントムに滅ぼされた……けど、そこからなんだよ俺の記憶は・・」
――つまり、ファントムに村が滅ぼされた以前の記憶は無いってことか。
「うん…………このエイビドゥって名前もこの学園の学園長がつけてくれた名前。だから、正直言うと俺には学園の方が家みたいなものなんだ」
そう話すエイビドゥの瞳に様々な思いが渦をまいていた。
――なるほどな。お前にとっての大切なものは誰かじゃなくてこの学園全てなんだな。
まぁ、何故お前がこの翼を知っていたかは問題じゃない。
むしろ好都合だ。
「好都合って何で?」
――基本的に作り出すものは悪魔に関連性が強い方がいいんだ。
より容易く、より強力に作り出せるからな。
さて、長いおしゃべりは終わりだ。壁の頂上みたいだぜ。
ついに高い……高い壁を越えて、エイビドゥとアゼルは学園の外に飛び出した。
「あれが……ファントム」
彼の瞳にうつったもの。それは、自分達よりも遥か下方に見え、大地にまとわりつくようにそこに存在しているファントム。
その全てが邪悪。下半身を黒いボロ衣で覆い、上半身には包帯のような白い……といっても薄汚れて灰色に近く、至るところに赤い血が滲んだものを上半身に何重にも巻き付けていた。
邪悪にして不気味。それは人が恐れるに値する化け物だった。
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