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しかし、彼の行動はまだ終わってはいなかった。炎に焼かれるファントムのもとへと、そのまま飛び込んでいき両手の悪魔の爪で十字にファントムを切り裂いた。
ザシュ ファントムの不気味な体が二つに分かれ、上半身は切り裂かれた後も激しく炎上し続けている。
下半身はまるで痙攣のようにピクピクと振動していた。
「や、やったのか……?」
誰から見ても戦いは終わり、ファントムは倒せたと思えてしまう光景で安堵しかかるエイビドゥの中、アゼルはまだ気を抜いてはいなかった。
――いや、まだだ。
「――だって、もうアイツは…………っ!?」
アゼルの言葉はエイビドゥが否定する間もなく真実と証明された。
上半身を失ったファントムの下半身は先ほどよりも激しく振動し続けて、ついには……
バキッ・・ボキッ・・グチャ・・グチョと骨が砕けるような音と血肉が蠢く耳障りな音の二つを奏でながら、下半身の切り口から新たなる上半身が生えてきた。
それは切り裂かれる前の上半身とは大きく違っていだ。
無数に伸びた触手は数を増し、不気味な頭部はより化け物となり、尖った角、飛び出した牙。
そして、何よりも黒い瞳。それはもはや闇の権化そのものであった。
「さ、再生した……?」
――ば、馬鹿!?エイビドゥ。気を抜くな!!
突然の予想外の事にエイビドゥはその動きを止め、見せてはならぬ隙をファントムにさらしてしまった。
今度はアゼルの言葉は間に合わず。次の瞬間だった……
ベキッボキッ
鈍い音が彼の左腕と胴から響き、彼はその音を聞いて初めて、自分に叩きつけられたのはファントムから伸びた触手の一本だと気付いた。
ふと、横を見れば遠ざかるファントム。体は触手の衝撃で吹き飛ばされ、地面へと急降下している。
すぐに翼を羽ばたかせようとするエイビドゥだが、左腕と胴への痛烈な衝撃は彼の骨を容易く数本砕いていた。
あまりの痛みに彼の魔力が乱れ、翼は塵となってしまった。
「ぐっ……!?このままじゃあ」
――エイビドゥ集中しろ。痛みに惑うな!!
しかし、迫り来る地面の恐怖に激しい痛みは彼に翼の精製を許さない。
地面まで残り後わずかとなる。
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