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何だよ……これ?
エイビドゥは目の前の信じがたい光景に言葉を失っていた。
「ぐ……がっはぁ」
天使エルトは全身から血を流し、地に伏せていた。流れる真っ赤な血に白き翼を赤く染めて。
「エルト!?」
ルーティがエルトに駆け寄ろうとしたその時、ファントムの触手がルーティに襲いかかる。
「危ない!!」
とっさにシーフェがルーティと触手の間に立つ、すると、今度はシーフェとファントムの間に天使リファルが立ちふさがり、魔力を集中させ結界をはり、ファントムの触手を受けとめる。
「な、なんて力だ。……このままじゃあ長くはもたない!!
我が主シーフェミファよ、彼らを連れてお逃げください!!!!」
リファルの判断は懸命だったがしかし、ファントムがそれを許しはしなかった。
パリン
音をたてて、結界は破られ、リファル自身も触手に叩き飛ばされた。
「あ……あ。いや、いや来ないで!!」
シーフェの顔が恐怖に染まる。ファントムはまるでその恐れる様をもてあそぶ様にゆっくり……ゆっくりと二人に近寄る。
ニ体の天使がいながら、たった一体のファントムに敗北する。
そんな結末をシーフェもルーティもエイビドゥすらも考えてはいなかった。
三人の心にあった唯一の油断。戦う力を勝つ力と勘違いしたこと。
今彼らは何故人々がファントムを恐れ、忌み嫌ってきたのか? それを見せつけられていた。
人の力を越えた存在。人の命を搾取する存在。人の恐怖を生み出す存在。
【ファントム】
それが彼らの心に深く刻まれた瞬間だった。
「このまま、じゃあ」
――確実に二人共殺されるだろうな。
「アゼル、翼を作って二人を助けに……」――無理だな。
「どうしてだよ!?」
――お前の体は今、あのお嬢ちゃんの魔力で痛みを和らげているだけで、動ける体じゃない。
助けに行ったところで三人まとめて殺されて終わりだ。
「なら……
…………アゼルが行ってよ」
――お前、その意味わかってんのか?
「代価でしょ?・・良いよ、好きな部分持ってけよ…………代わりに二人を」
――本気……なのか?
「早くっ!! 二人がやられる前に!!」
エイビドゥの瞳に恐怖は無かった。
あるのはただ光だけ。
友達を守りたいという思いだけ。
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