†第一章参幕目† 『大切なものと守る為の力』

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……一瞬。そう一瞬だった。  私は目の前にいるファントムに殺されると思った。  しかし、私は死んではいなかった。 赤と黒が斑に辺りを包んで膨大な魔力を感じ、そちらを向くとそこにはエイがいた。   満身創痍で傷つき、動けるはずのない彼が。 私は恐怖で硬直した体の底から必死でエイを呼んでみた。すると、エイは返事はせずに詠唱を始めた。 そう、あれは顕現の言霊 ――自らを代価に悪魔の真の力を冥界の底からこちらの世界に呼び寄せる呪文。 そこで、一瞬途切れた私の記憶。 次に目を覚まし、目にうつったものは…… 「……え?」 変わらず流れる赤と黒の世界とその中心にたたずむファントムに………… そのファントムの正面には…… 頭部には大きく湾曲した角、全身は漆黒だが光の反射で淡いルビーのような輝きを見せる皮膚。 巨大な手足両方の指先には刃のような鋭い爪。 ファントムがちっぽけにしか見えなくなるほどの巨大さ、さらに背には三枚の大きな黒い翼。 そして、時折赤と青を行き来する紫の瞳。 邪悪と美しさを両方持つもの。 それが………… 「……“悪魔”」  突如、目の前から少女が消え巨大な悪魔が出現したというのにファントムは何一つ動揺せず、標的を眼前の悪魔に変えて触手をしならせる。 【クックック、運が悪かったなファントム。 我が主はお怒りだ。 貴様に恐怖があろうがなかろうが関係ない。 刹那に全てをこの世界から滅してやる】  巨大な悪魔。それはアゼルの真の姿。悪魔の魔力はその姿の大きさとも言われるが、それに基づいて考えたならば、アゼルの魔力の膨大な量を知ることが出来るだろう。  心無き人形ファントムはその力差などわからずにアゼルに触手をのばす。 【お別れだ……人形】 バサッ  アゼルの背の三翼が三方に大きく広がると同時にファントムの周りを翼から放たれた紫の魔力球が廻る。  すると、魔力球の道筋はやがて鎖となりてファントムを縛る。  次の瞬間、アゼルの口から紅い閃光が発しファントムを貫くと紅い閃光が通った部分から爆発が生じ、ファントムの体は微塵の欠片も残さず吹き飛び、一瞬で燃え尽きた…………灰一つ残さずに。  そして、硝子が砕けるかの如く赤と黒の景色は消えて元の景色に戻った。
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