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遠ざかる意識の中で最後に見えた景色。
俺達を苦しめた闇が赤と黒の世界で紅い光に貫かれ、紅から黒に変わり、やがて、世界の色の中に消えていった。
俺は死んだのだろうか? 大きな光に包まれて、そこで記憶は途切れた。
――ん? 心臓の音も聞こえる。休まず脈打ち続けている。
「俺は……生きている?」
エイビドゥはそう言うとゆっくり目を開いて体を起こした。
そこに広がったのはまぶしい日の光と白い部屋。
エイビドゥはこの部屋に見覚えがあった。横にはいくつかのベッドが並び、その間を軽く遮る為の純白のカーテン。
ここは何度もエイビドゥが仮病を使って授業をサボりに来ていた医療室。
「まさか、本当に怪我人で来ることになるとはな」
「本当だよ!! 普段から嘘つくから実際に怪我してくることになるんだよっ!!」
エイビドゥのすぐ近くから少女の大きな声がする。
「シ……シーフェ?!」
「うん…………エイの……バカァァ!!」
パチーン!! エイビドゥの頬に痛い一撃が入る。
「……っ!?」
「何とぼけた顔してるのよ? バカッ……心配したんだよ……」
そう言うシーフェの瞳は溢れんばかりの涙で滲んでいた。 そして、そのまま彼の横たわるベッドに頭をうずめ、静かに泣いた。
「シーフェ…………ごめん。けど、俺大丈夫だから」
泣き崩れたシーフェの頭に手をあててそう言ったエイビドゥ。
「ん? 無傷? いや、無傷のわけが……手……ある。足……ある。……あれも……ある。あれ? あれあれ、確かに俺は……」
「代価ならちゃんと頂いてるぜ」
「っ!? アゼル!!」
エイビドゥのちょうど真上にアゼルがプカプカと優雅に浮かんでいた。
「けど、アゼル。手足全部あるんだけどー……」
「ふん。右手で頭触ってみろよ」
疑問だらけで不服そうにアゼルに従うエイビドゥ。
――パサ。
「って!? 痛ってえ!!」
頭を触ると激痛がはしった右手をよく見てみるエイビドゥ。
「爪がない……って髪の毛もって、なんだこれ?!」
頭に触れた瞬間にエイビドゥの毛髪が束となって抜けた。
「もう、わかっただろうが今回は初回サービスということで爪と髪だ。しかも、髪は六十六本と少なめだ」
「喜んでいいのかどうか迷うな……」
エイビドゥは複雑な表情をしていた。
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